魔法がとけるまで
なんでこんな嘘、ついてもうたんやろ…?



病院を出て、家に向かう途中で良心がズキズキと痛んだ。



『座間さんは、私の会社の配達担当ドライバーです。そこで知り合いました。あなたが気を失った時、たまたま居合わせた私が、救急車を呼びました…』



そう話せば良かった。そしたら、会社に連絡をして、座間さんを知る誰かの元に帰れたのに…。



座間さんは、ひとり暮らしなんやろうか?同棲しているかもしらんし、結婚しているかもしらん。同棲や結婚まではしていなくても、あんなにイケメンなんやから、彼女くらいはいるやろう…。



いろいろ考えていると、ふと、座間さんの笑顔や不安げな表情が頭に浮かんだ。



座間さんは…魔法にかかっている…。それがとけるまで…独り占めしたい…。



いけないことやとわかっているけれど…。



ほんの少しだけ、夢を見させてほしい…そう、思った。



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