魔法がとけるまで
「ごちそうさまでした」


座間さんが食べ終わった食器をキッチンに運ぶ。


「私が洗いますからっ」


さすがに悪いと思った。ヒモ、やないのに…。



「ありがとうございます…歯磨きしたら、ちょっと散歩してきます」



「えっ…」



「何か…思い出すかもしれへんし…」



「そうですね…」



このまま、帰って来ないかもしれへん…。汚れた食器たちに視線を落とした。



「ちゃんと、帰ってきますから、ご心配なく」



座間さんは、私の心を見透かすようにそう言うと柔らかい笑みを浮かべた。



私は、俯いて垂れた前髪の隙間から、柔らかい笑みを見ていた。



そろそろ、魔法がとけそうな予感がした。



< 32 / 80 >

この作品をシェア

pagetop