ツンデレくんを呼んでみた。
「ていうか、LINEブロックしちゃえばいいんやないの? そんなに嫌ならさ」


志満ちゃんが再びお茶を啜った。ここの食堂のほうじ茶はおいしい。温かいものも置いてあるから体も冷えないし。


「それができればいいんだけどさ、相手が相手だからね。面と向かって話す分には問題ないからブロックして気まずくなるのも嫌だし」

「いや、もう面と向かっても問題あるやろ」

「そうでした」


あたしはついさっき、直接告白されたばかりでした。


「でも、ブロックされた方ってけっこう傷付くよ」

「されたことあるんか」

「いや、ないけど、好きな人にブロックされるの想像したら立ち直れないなって。でもさあ、確かブロックって、された側はわからないんだよね。普通にメッセージは送れるから。いつまでも既読が付かないな、くらいで」

「相手には通知されないんやっけ?」

「そう。友達が言ってた」

「それ、山崎には逆効果やないの? 曖昧なままほっとくともっとめんどくさくなるよ」

「だからブロックできないんだって」


ブロックした旨を相手に通知できる機能があればいいのかな、と思った。


もしかしたらあたし達はひどいことを言っているのかもしれない。でも、話が通じない相手には、はっきり拒絶した方がいいのだ。LINEならば、ブロックされたと山崎に認識させなければならない。そうでないと拒絶されたと自覚しないからだ。


恋は盲目とは本当に恐ろしいことで、自分の都合の悪いものには聞く耳を持たない。意識しているのではなく、無意識にそうなるのだ。山崎だってきっと例外ではないはずだ。


好きな人と繋がるために、一緒になるために、その人を思い続けるために、自分の世界に入って外界をシャットアウトする。現実を見てしまえばこの思いが砕かれるかもしれないから。


そうやって無意識に皆が恐れるほど、現実は厳しいものだ。


それでも現実を見せないといけないことも、中にはある。


そして、あたしが山崎のLINEをブロックできないわけは、もう一つあった。


良心が痛むのだ。人として最低なことをすることが怖いと言ってもいい。どんな人が相手であれ、他人のアカウントをブロックすることはその人を少なからず傷つける。あたしはそれを恐れているのだ。


あたしは臆病者だ。


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