ツンデレくんを呼んでみた。
きっと中出は呆れているだろう。ふう、と息を吐いたのが聞こえた。


「じゃあ、別れるか」


時が止まったような気がした。


気がしただけだ。現実の世界は絶え間なく動き続ける。


「そんなに嫌なら、離れた方がお互いのためやし」


中出にわかるはずもないのだ。あたしの本当の気持ちなんて。


あたしは本音と真逆のことを中出に伝えたのだから、わからなくて当然なのだ。超能力者じゃあるまいし。


自業自得。


あたしはもう隠しきれなかった。どんなに唇を噛み締めても嗚咽が漏れて、どんなに拭っても涙は零れる。


「…………に」

「は?」

「好き……なのに」

「……何を今更」

「好きなのにっ…………辛い」


何を言っているんだと中出は思うだろう。あたしだってわけがわからない。


好きなのに辛くて、離れたいのに好き。離れたくなくて傍にいたくない。


ぐちゃぐちゃで、理解不能だ。中出はもっとわからないはずだ。


「やだ…………離れたくない……っ」


あたしは中出にしがみついた。


こんな自分、めんどくさい。願わずとも中出はこんなあたしを嫌うのだろう。


「……ばかやな」


中出がため息をついた。


それから涙を拭うあたしの手を掴んだ。


「……離してっ」

「もともとよくない顔が余計ぶっさいくになるぞ」

「ほっといて……」

「不細工になるのはほっとくけど」


中出の唇があたしの瞼にそっと触れた。


唇がゆっくり離れて、中出はあたしをじっと見つめた。


「……泣くな」


中出の唇の温もりが、あたしの時を止めた。


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