ツンデレくんを呼んでみた。
あたしの様子を見ていた中出がため息混じりに呟いた。


「……俺がいいとか、ほんと変わっとる」

「…………」


中出の指が頬を滑って涙を拭う。そして、そのまま鼻を摘んできた。


「うぎゃっ!」

「変な声」


中出がふはっと吹き出した。それからすぐに真顔に戻る。


「なあ、そういうのって、男を煽るって知らんのけ?」

「そういうのって……?」

「俺がいい、とか」

「変わってるって言ったよね」

「それとこれとはまた別問題」

「……そうですか」

「言っとくけど、俺だって男だから」

「……わかってる」

「わかってねえ。何も」


そう言った中出の吐息が不意にあたしの唇を撫でて、ゆっくりと唇が重なった。


遠慮がちに、そっと触れるように。


唇に感じた温もりに頭が真っ白になる。


中出からの、二度目のキスだった。


頭でそう理解した時は、中出の唇がわずかに開かれて噛み付くように触れていた。


「ん……ちょ、待っ…………」


抵抗しようとしたあたしを押さえつけて、黙ったまま何度も何度も中出があたしの唇に噛み付く。


どくりと体の奥が脈を打つ。


この男にこんな強引なところがあるなんて知るはずもない。


「……ずっとキスしたかったなんて、知らねえだろ」


ふと中出が離れて、ぽつりと呟いた。


その声が普段の数倍低くて掠れていて、あたしの横にいるのが知らない男に見えた。


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