ツンデレくんを呼んでみた。
夢物語
スマホの画面を見ながらうとうとしていた。


でも寝たら、夜眠れなくなる。明日は一限から授業があるからそれは避けたい。


あたしはぼんやりとした頭でそこまで考えた。それでも瞼は自然と下りる。


「…………眠い」


腫れた目をこすってみたらひりひりした。瞼ももいつもより開かない。


昨日泣いちゃったからな……。


ふと中出を思い出した。


指でそっと唇をなぞってみる。昨日の温もりはまだ消えていなかった。


中出も男だったのだ。


なんてことはない。知っていたけど自覚はなかったことがようやく身に染みてわかっただけのことだ。


中出の唇の温もりと柔らかさ。開いた口から漏れる熱い吐息。あたしの指に絡む骨っぽく長い指。


生々しくて、色っぽい。


あの後あたしは中出に抱きしめられるようにして眠った。


思えば、あんなふうに中出と寝たのは初めてだった。


たぶん中出なりに気を遣ってくれたのだろう。


ベタベタすることを嫌って、基本的に触れることを拒むのだから。
(そうなるとキスと一緒に寝ることは例外になるけど、中出の基準がさっぱりわからない)


たぶん無意識だけど、中出はあたしを翻弄することがうまい。


あんなにがっつりキスされるのは初めてで、いつのまにか体の力が抜けて、中出のされるがままになってしまった。


もしあのまま中出が無理やりあたしの体に触れていたら、あたしはきっと抵抗できなかった。


中出が求めるまま、あたしは自分を差し出しただろう。


別にそれが嫌ではないし、あたしは中出にならいつでも触れてほしいと思ってるけど、でも中出はそんなことは絶対しないだろう。


他人が嫌がることはしない男だ、中出は。


口は悪いし無気力だけど、他人を思いやるくらいの優しさは持ち合わせている。それが普段は表に出ないだけの話だ。


それにしても、昨日の中出は普段からは想像がつかないほど優しかった。


中出なりに慰めてくれたんだろうな。


気分は晴れないけど、少し嬉しかった。


< 56 / 104 >

この作品をシェア

pagetop