ツンデレくんを呼んでみた。
あたしは中出の匂いを思い切り吸い込んだ。それだけで目の奥がじわじわと熱くなった。


あーやばい。今日も情緒不安定だ。


あれから少し時が経って、少しだけ落ち着いてきて、いろいろなことが頭に浮かぶ。


自分が被害者なのだという思いだけではなく、山崎のことと中出のことを同時に考える。


山崎はこれからもあんな感じなのだろうか。一歩間違えばストーカーになりかねないことを気付かせないと、いつか犯罪を起こしそうだ。


中出は忙しいからあたしのことなんて考えない。もともとそういう男だし、自分達の生活を最優先することはだいぶ前に二人で決めたことだ。わかっているけど、やっぱり寂しい気持ちになるし心細い。


こういう時にこそ傍にいてほしいのに。


そんなこと言えるわけない。中出の邪魔をしてはいけない。


あたしは一人で立ち直れる。


だから大丈夫だ。


……何が大丈夫だ。ちっとも大丈夫じゃない。


中出がいなきゃ、ずっと引きこもって布団に包まって怯えていたくせに。


外に出ることすら怖い臆病者のくせに。


なのにどうして強がるの。そんなの意味ないのに。


自分を強く見せることなんていいことはないのに。


「……大丈夫じゃないよ全然」


思っていたよりか細い声が出て、余計虚しくなった。


涙は出なかった。


中出は、本当に意地悪だ。


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