ツンデレくんを呼んでみた。
「なあ、どうして我慢してるん?」

「恥ずかしい……っ」

「そんなん今更やろ。俺しか聞いてないし」


もしかしたらあたしの声が中出は嫌なんじゃないかと思っていた。だから我慢していた。


自分の感じている声なんて、自分でも普段と違いすぎて戸惑うのに。


だけど中出はそれすら気にならないのか、その声を聞きたいのか、それはわからないけど。


「我慢しなくていいから、出せ」


そう言われて、あたしは頑なに我慢していたものを少しずつ中出に向けた。


「なんか……自分の声じゃないみたいで嫌なの」

「ふうん」

「中出は嫌じゃないの?」

「さあ」


中出はそうやっていつもはぐらかす。


はぐらかして、自分が思っていることはほとんど口にしなくて、ただあたしに触れるだけ。


けど、最後の一線だけはなかなか踏み越えてこなかった。


あたしが怖がっていることをわかっていたのだと思う。


それと、中出もかなり躊躇していたんだと思う。


その箇所に触れる時、中出は珍しく緊張を露にしていた。


「無理しなくてもいいよ……」

「無理してるんは奈子やろ」


お互い初めてで、何もかもが手探りだった。


中出は余裕がないと言ったけど、焦ってはいなかった。


他人に興味を持たないくせに、他人を労るのだ。


自分本意なことはしない。


言葉にしなくても、中出は十分優しい男だった。


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