ツンデレくんを呼んでみた。
「心配だなあ」

「あ?」


ブオーというドライヤーの轟音であたしの呟きなど聞こえるはずがないのに、中出は熱風で髪をなびかせながら振り向いた。


こいつは案外耳がいいらしい。


それからすぐに中出はドライヤーのスイッチを切った。


「中出が酒飲んで潰れることはないけど、潰れた女の子に襲われたらって考えたらさあ」

「はあ?」


ドライヤーのコードを片付けながらゲテモノを見るような目であたしを見た。


それはさすがにひどいと思う。


「だって、中出のとこのゼミって女の子多いんでしょ?」

「俺はほとんど関わらねえよ。俺の性格知ってるやろ」

「わかってるけど、中出を好きになる女の子が絶対いないとは限らないでしょ。ゼミっていう狭い世界で近くにいるんだから、余計にさ」

「……知らねえよ」

「中出が浮気することはないとしても、前例もあるからなあ」


前例とは、あたし達が付き合う前に、中出のことを好きになった美女がいたのだ。工学部の、男子が星の数ほどいるところで、10人中8人は確実に振り向くであろうほどの美女が中出を好きになったのかはいまだに謎だ。


そしてもう一つ、中出が昔好きだったという女の子と偶然出くわして気持ちが再燃しかけたという話もあるから、中出が浮気することも決してないわけではないと思う。


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