君が為
「何だよ、変にしおらしいな。昼間のお前はどこに行ったんだ?」
藤堂さんの手が伸びて来て、私の頭をくしゃりと撫でた。
驚いて藤堂さんを見ると、藤堂さんは私以上に驚いていた。
視線が何度も、自分の手と私を行き来する。
「……!お、お前が倒れた後詮議はお開きになった。だから、処遇もまだ出てない」
私の視線に気付いた藤堂さんは早口でそう言うと、私から飛び退いた。
「お前……家は……家族は……」
私は俯いて、首を振った。
息を飲む音が、耳に入る。
「何でだよ、まさか売られたわけじゃないだろう」
「違います……っ、売られたとか、そんなっ」
「じゃあ何で」
藤堂さんの視線を受け止め切れなくて、私は視線を逸らした。
本当は、初めて此処で眼を覚ました時気付いていた。
ここの異変に。
此処の全ては、私と違う。何かが違うんだ……って。
『当たり前、徳川あってのこの時代だからな』
美形の人……土方さんだったっけ。
あの人の言葉で、一つの疑問が確信へと変わったんだ。
此処は、江戸時代。
それも、動乱の世と言われる幕末だーーって。
自分は、時を超えてしまったんだーーって。