君が為

「あ……あぁ……」


ーータイムスリップした。


そう認めてしまった今、言い様のない恐怖が私を襲った。
血の気がサッと引いて、目の前が真っ白になる。


頭の奥が、酷く痛んだ。


全身が震える。
私は自分を庇うように抱き締めた。それでも、身体の震えは治まらない。


「どうした……お前……顔色悪いぞ……おいっ!!」


「……やっ!!」


いや……いやいやいやいや!!!
恐い……恐いよ……助けて……っ!!!


清春……助けてよ。
ずっと側に居てくれるって言ったのに……肝心な時、隣に居てくれないんだから……。


「落ち着けって、大丈夫……大丈夫だから」


藤堂さんは取り乱す私を見兼ねて、乱暴に抱き締めた。
そして、背中を不慣れた手付きで撫でてくれる。


『大丈夫……大丈夫』と、藤堂さんが呪文のように囁く。
私は彼に全てを預けて、呼吸をすることだけに意識を向けた。


大きく息を吸い込んで、肺に酸素を送る。
それを何度か繰り返すと、僅かではあったが、身体の震えが治まっていった。


「気分はどうだ」


暫く経って、藤堂さんが私の顔を覗き込んだ。
至近距離で見ると、かなり整った顔をしている。


恥ずかしいな……人の前で取り乱しちゃうなんて。


少し火照った頬を片手で隠して、私は藤堂さんを見つめ返す。


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