君が為

「詩弦……俺はずっとお前の側に居るから。何があっても、絶対に……」


「出来ない約束はしないで。……みんなそう言って、私の前から居なくなるんだから」


桜の花びらが一枚、ヒラヒラと風に舞い、清春の肩に落ちた。
私はゆっくりと清春に近づくと、花弁を摘み上げる。


「もう、あんな思いをしたくないの……だから、そんなこと言わないで」


私の眼の奥には、自分でも分かるほどに深い闇があった。
何かに怯え、逃げるような……そんな陰が見え隠れしている。


それを悟られないように淡く微笑んで見せると、私は花弁を風に預けた。
ひとひらの花弁は楽しげに舞い、風と共に何処かへ消えてしまう。


「桜になりたいな……私」


ふと、そう思った。


「……なるなよ。桜なんて、すぐに散っちまうじゃねーか。生き急いでいく桜なんか、お前に似合わねぇよ」


私の手首が、清春の手に取られた。ぐっと自分の方に引寄せられる。


フワリと、清春の甘い香りが、私の鼻腔を擽る。
清春に抱き締められても、顔が紅く染まることはなかった。


そんな私達を嘲笑うかのように、優雅に桜が靡いていた。





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