君が為
いつも通り私は、皆の枠から外れて個別練習を行う。
平成の基礎体力は、この時代で無意味に等しいから、沖田さん達に付いていけなかった。
天然理心流の師範である近藤 勇さんが考案してくれた練習メニューは、確実に私の体力を向上させてくれる。それが、嬉しくて仕方なかった。
だけど、力が付いてくる事が、恐怖でもあった。
私が剣術を習っているのは、競うためのものではなく、殺すためのものなんだ……って分かってたはずなのに……。
強くなればなるほど、この剣を誰かに向けるのが恐いんだ……。
「他所ごと考えてんなよ。そんなんじゃ、救える命も救えるか……っての…っ‼」
藤堂さんの木刀が、私の木刀を弾き飛ばした。
数メートル後ろから、木刀が落ちる乾いた音が聞こえてくる。
「強くなりたいと言ったのは、他でもないお前だろ。自分の言った事ぐらい、責任持てよ」
吐き捨てるようにそう言われた。
私は唇を噛みしめる。
痛いなんて、感じなかった。ただただ、悔しくて……言い返せなくて。
私は暫く立ち上がれないまま、握り締めた拳をずっと見ていた。
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それから少し経って、夕御飯……つまり夕餉の時間になった。
私達は全員大広間で取ることになっている。
ただ、一部の例外を除いては……。
「辛気臭い顔してんな……平助からまた何か言われたんだろう?」
私の隣に膳を置いて腰を下ろしたのは永倉 新八さん。
中肉中背でひょろりとしているけど、腕力は人一倍強い。
面倒見のいい知的な近所のお兄さん的人だった。