君が為
「新見さんから聞いて参りました。私に何か」
芹沢さんの手には鉄扇が握られている。
前に一度持たせてもらったけれど、重くて簡単に扱えるような物ではなかった。
それをさも軽そうに扱うとなると、この人も只者ではないんだろうな。
「なに、退屈だったので呼んだまでだ。少しの間、俺の話し相手になってくれ」
芹沢さんはそう言うと、煙管をカンっ……と叩いて灰を落とした。
私のことを気遣っているのか、襖を開けて換気するようにと、目で促す。
さり気無い芹沢さんの優しさ。
こういう時、普段見せない彼の本性に迫ったような気がするんだ。
それから時間が許す限り、芹沢さんは私相手に喋り続けた。
故郷のこと、自分のこと、新見さん達のこと……。
芹沢さんは話し上手で、どんどん話に引き込まれる。
こんなに饒舌だなんて、思ってもみなかったけど……こっちの芹沢さんの方が好きだな……。
隊士の前や町の人の前になると、別人のように目を吊り上がらせて闊歩する彼。
大きい背中に、深い闇を背負っているようで、私はいつも目を逸らす。
「……少し喋りすぎたな。詩弦、もう彼奴らの所へ戻れ」
芹沢さんは扇をパチンと閉じると、襖の方を指した。
釣られるように目を向けると、誰かの気配を感じる。
不思議に思った私は、少し警戒しながら、襖を開けた。