君が為
「……ねぇ」
肩にまわった清春の腕を軽く叩くと、私は辺りを見渡した。
そんな私を不思議そうに清春は見つめる。
「どうした、何かあったのか」
「……」
私は返事をしないまま、本能的に足を動かす。
生い茂った木々のトンネルを抜けると、小さな石の祠がポツンと立っていた。
その祠を守るかのようにして、白と黄色の花が咲き乱れている。
「なんだ、此処……詩弦、知ってたか?」
後ろから追いかけて来た清春が、私の顔を覗き込んだ。
私はもう一度祠と花々に目を向けると、眼を伏せる。
私も清春と同じ。
ずっと長い間あの桜の樹に通っていたけど、こんな所は初めてだった。
こんな綺麗で幻想的な場所があったなんて……と喜ぶよりも、私はまだ違和感を覚えてはならなかった。
私はそっと祠に近付くと、腰を落とす。
ただの石の祠か……いや。
「清春……これなんて書いてあると思う?」
石に刻まれた文字を指でなぞってみせる。
「……駄目だ、読めない。つーかどんだけ昔の物なんだよ、昨日今日の物じゃねぇだろ、これ」
清春がため息を吐くと同時に、私の頭に鈍い痛みが奔った。
思わず、顔を歪ませる。
幸い、清春は後ろを向いていて、気付いていないようだ。