君が為
一瞬だったし、気の所為かな……。
「そろそろ戻ろう。お前のことだから、朝飯食ってないだろ?なんか食べに行こうぜ」
そう言えば、そうだった。
私は立ち上がるって、差し出された清春の手を掴もうと、手を伸ばした。
「あっ……」
あ……れ?
手は空を掴むと、私の視界がぐにゃりと大きく歪んだ。
糸が切れたかのように、私は膝から崩れ落ちる。
身体に力が入らない。
「おいっ、詩弦……!!詩弦っ!!!」
だんだんと、遠くなっていく清春の声。
私は自分ではもうどうにもならない身体を無理やり動かすと、清春の手を握った。
「だぃ……じょ、ぶ」
言葉が声にならない。
けれど、清春は泣き笑いのような顔をして、私の頭を撫でてくれた。
清春の大きくて優しい手……。
撫でられるのが心地よくて、何よりも安心する。
「詩弦……」
その笑顔を最後に、私の意識は完全に途絶えた。