Epithalamium
『それはありえんじゃろう。これはあくまでも形だけのものじゃ』


「では、何のためにこんなことがあるんですか!」



ノホホンとした神竜の態度に、思わず語気を荒げているセシリア。しかし、相手はそのことを気にもしていないようだった。前足の爪で顎をポリポリ掻く姿は、神聖なものに見えるはずもない。



『これは、どうしても逃れたい時の最後の手段じゃからの。しかし、今回はそれもできぬことじゃ』


「どうしてですの」



大体のわけはわかっている。それでも、セシリアはそれをきこうとしていた。そんな彼女に神竜はのんびりした調子で答えている。



『今回の司祭は聖教皇じゃろう。あやつがここまで来て、中止にできるはずもなかろうて』


「エロ親父だとばらしてやろうかしら」



ポツリと呟く声。そして、剣呑な光がその瞳には浮かんでいる。そんなセシリアに神竜は諭すような調子で声をかけていた。



『そんなことはするもんじゃない。お前が困るだけじゃぞ』


「わかっているわ」



先ほどまでの毒を含んだ勢いが嘘のように大人しくなっているセシリア。彼女とて、そのようなことができるとは思ってもいない。ただ、顔なじみの相手に会ったことで、愚痴をこぼしたくなったのだろう。



『儂が保証してやろう。お前は間違いなく幸せになれる』


「あなたの御墨付きって信用できないわね」


『まったく……年寄りは敬うものじゃとあの時も言ったじゃろうが』



神竜の言葉にセシリアは返事をしようとはしない。彼女は最後に神竜を軽く睨みつけると、その場から離れている巫女を呼ぼうとしていた。



『どうするつもりじゃ』


「どうするもこうするも、私ができる返事は一つでしょう?」



セシリアがそう言い切った時。彼女の案内役である巫女が静かにその場にやってきていた。それをみた神竜は、先ほどまでの飄々とした雰囲気を感じさせないようにしている。



「神々からの託宣はお受けになられましたか」



巫女の問いかけにセシリアは静かに頷いている。そんな彼女に巫女は引き続いて訊ねていた。



「神の代理でもある神竜様は、この婚姻をよしとおっしゃられましたか」



部屋の中で威儀を正している神竜とその前に静かにたたずむセシリア。その様子をみれば、返事はわかるというものだろう。それでも、これは決まりごとでもある。

< 3 / 6 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop