Epithalamium
そして、巫女に問い掛けられたセシリア。彼女はスッと目を伏せると軽く頷いていた。それをみた巫女はホッと安堵の息をついている。



「それではこちらへ。あちらで沐浴とお召しかえをしていただきます」



そう言った巫女は有無を言わせずセシリアを別室に案内している。その彼女を見送った神竜は、ご愁傷様、とでもいいたげな表情を浮かべているのだった。



『まあ、お前さんなら大丈夫じゃて。いや、お前さんでないと無理じゃろうな』



神竜のその声を聞いている者は誰もいない。

そして、始祖王との対面。神々の託宣。この二つの関門をクリアしたことで、婚儀は次の段階へと進もうとしているのだった。



◇◆◇◆◇



巫女に案内された沐浴のための場。そこにズラッと控えている巫女やら見習い巫女の姿。それにセシリアは嫌な予感を覚えていた。

ここまでの人数が本当に必要なのだろうか、という思いがセシリアにはある。しかし、巫女たちはそんなセシリアの思いなど気にもしていない。彼女たちはセシリアが身につけていた巫女装束を脱がせると沐浴をさせているのだった。



「こちらにおいでくださいませ」



巫女に導かれたセシリアは、大きな姿見の前に立たされている。そして、そのかたわらにはこの日のために用意されたドレスや装身具がおいてあった。



「お時間がかかりますが、辛抱くださいませ」



さすがに花嫁の飾り付けをするのは巫女ではない。王太子妃となるセシリアには何人もの侍女がつけられている。その中の一人の声に、セシリアはかすかにため息をついていた。



「どうかなさいましたか? もう、黙っておられる必要はございません。何かありましたら、お声をおかけください」



侍女の声にセシリアは軽く首をふっている。今さら、何を言ってもこの婚礼が止まらないことは、彼女自身が一番わかっているのだろう。どうして、という思いが彼女の中ではどんどん大きくなっていた。

しかし、セシリアがそう思っていても、婚礼の準備が止まるわけではない。侍女たちはセシリアの髪を結い上げ、そこに飾りピンをさしている。体中によい香りの香油が塗りこまれ、白粉と紅で化粧されている。

セシリアが望んだのはこのようなことではなかっただろう。しかし、彼女が望まないにもかかわらず、花嫁として飾り付けられていく。鏡に映る自分の姿に、セシリアはかすかなため息をついていた。

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