Epithalamium
「どうかなさいましたか」



彼女を飾り付けるのに夢中にはなっていても、そういった気配はわかるのだろう。侍女が着付けの手を止めてセシリアに問いかけていた。



「何でもないの。でも、私でいいの?」



返事を求めた言葉ではない。それでも、セシリアのその呟きに侍女はしっかりとこたえていた。



「当たり前でございましょう。今日という日を誰もが待ち焦がれておりました。ですから、そのようなお顔をなさるものではありません」


「私でかまわないのかしら?」



ポツリと呟く声。それは、よほど注意していないと聞こえないもの。しかし、それを聞いていた侍女はセシリアを励ますように微笑んでいた。



「大丈夫でございます。自信を持ってくださいませ。さ、お支度もできあがりました。巫女様方、あとはお願いいたします」



セシリアを飾り付けていた侍女の声。それを聞いた巫女たちが彼女を導くために近寄っている。



「お美しいですわ」


「おめでとうございます。神々の祝福は間違いございません」



花嫁衣装を身につけたセシリアに口々に賞賛の声をあげる巫女たち。中には思わず額ずく者もいる。それにはセシリア自身が驚いてしまっていた。



「やめて。私はそんなことをされることはないわ」


「いいえ。まさしく貴女様はこの国の未来の国母に相応しい御方です。私たちには貴女様のお持ちの品格がハッキリとみてとれます」



巫女の言葉にセシリアはどう言っていいのかわからない。それでも、白い花嫁衣装を身につけた彼女は冒すことのできない何かがあるのだろう。長々とヴェールを引き、花嫁のブーケを持った彼女は、導かれるままに祭壇の前へと進んでいるのだった。

ゆっくりと通路を歩いているセシリア。その彼女をみつめる多くの人々の目がある。そのすべてが祝福のものであることに、彼女はなかなか気がつくことがなかった。

そして、そんな彼女の前を同じようにゆっくり歩いているアルフリート。彼にしてみれば、この時というのは嬉しくもあり、無事に終わるのかという不安もあったのだろう。それを証明するように、その顔はかたく強張ってもいるようである。

そんな二人の後ろには誓約書と指輪を捧げた神官が続いている。そして、この式の司祭を勤める聖教皇の前でアルフリートとセシリアは額ずくとその言葉を待っているのだった。



「このたびの婚姻。神々と始祖王の異議はない。しかし、人の思いはどうであるのか」

< 5 / 6 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop