私が恋したのは女の子でした。
「えっと……つまり……本当は女の子だから、私と付き合えないの?」

「自分が女の子って認めたくないんだけど……まあそういうこと」

 かえでくんの外見は、今見れば女の子が男装した姿だとわかる。

 でも、正直、その情報がないときにはわからなかった。

 それくらい、かえでくんは男らしかった。

「性同一性障害とか……そういうこと?」

「その言葉キライ」

 浅はかな知識でそんなことを訊いたら、かえでくんの機嫌を損ねてしまった。

「僕、障害なんかじゃないし。ただ、女の子の身体で生まれてきちゃっただけなのに」

 そうか……。

 当事者という立場になかったから、気付かなかったけど、確かに差別的な響きに聞こえなくもない。

 その言葉を作った人もきっと……当事者じゃないんだろうね。

「でも、わかった? そういうわけだから、僕のこと諦めて。ちゃんとした男好きになってよ」

 コーヒーをだいぶ残しながらも、かえでくんは伝票を手に立ち上がった。

「友達としては付き合うからさ。じゃ、またね、あかりちゃん」

 その背中を追いかけることができなかった。

 あまりに衝撃的な事実だった。

 私は……どうしたら良いのかわからなかったのでした。
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