コイスルハナビラ SAKURA
「ちょ、ちょっと、さくら!」
麻紀ちゃんが慌てたように、あたしの袖をつかむ。
「少しは、周りの目を気にしなよ……」
周囲を、キョロキョロと見回す麻紀ちゃん。
「いいのっ!」
あたしは、そんな麻紀ちゃんに言う。
「ほらっ! 麻紀ちゃんも、一緒に!」
「ええっ!?」
「ほ~ら!」
「私はいいって……」
「ダ~メ!」
結局、あたしに押し切られた麻紀ちゃん。
「りょ……涼介の……バカヤロ……」
周りの音にかき消されるような小さな声で、恥ずかしそうに言った。
「麻紀ちゃん、全然ダメよ! もっと大きな声で! ……涼介のばかやろーっ!!って」
あたしは、
「ほらっ」
と、再び促した。
「りょ、涼介の……バカヤロー!」
「今度は、握り拳を天に突き上げながら!」
「涼介の……バカヤロー!」
「もっとぉ!」
「涼介のバカヤロー!!」
「ばかやろーっ!!」
握り拳を突き上げて、『涼介のばかやろー!』を連呼するあたしたち。
それは、周りの人からすると不思議な光景に見えたみたい。
みんな仕事の手を休めて、あたしたちを遠巻きに眺めていた。