コイスルハナビラ SAKURA
その時━━━


「さっきから、何をやっているんだ……?」


不意にかけられた声。

あたしたちは、びっくりして振り返った。


そこには、男の人が立っていた。

歳は、30代後半といったところ。

腰に手を当てて、少し困ったような笑顔。

でも、とても優しそうな笑顔を浮かべている男の人がいた。


「わ、若林さんっ!!」


麻紀ちゃんが、驚きの声を上げる。


若林さん?

若林さんって、今日から3日間お世話になるお店のオーナーさんよね?

この人が、そうなんだ~!


「い、いつから、聞いていたんですか?」


あたしがそんなことを思っていると、麻紀ちゃんが慌てたように質問した。


「ん~? 『握り拳を天に突き上げながら~』ってところからかな。」

「うわぁ……最悪……」


麻紀ちゃんは、落ち込むそぶりを見せる。


「いや、なかなか楽しそうだったよ」


若林さんは、そう言って爽やかに笑った。

でも、麻紀ちゃんには聞こえてないみたい。


「さくら、うらむよ……!」


あたしをにらむ麻紀ちゃん。


「はははっ。……で、隣りの相方さんが麻紀ちゃんの友達かい?」

「はい! 綾瀬 さくらです! 今日から、よろしくお願いします!」


こういうのって、最初の挨拶が肝心よね。

あたしは、深々とおじぎをした。


「そんなに、かしこまらないで。こちらこそ、よろしく!」


そう言って、若林さんは優しく微笑んでくれた。


「じゃあ、俺は先に店に戻ってるから」

そう言って、若林さんは笑顔を浮かべたまま去っていった。


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