コイスルハナビラ SAKURA

「あーん、ふーちぇんがぁ!!」


あたしたちの耳に飛び込んできた、可愛い叫び声。

振り返ると、ベンチの前に、3歳くらいの女の子を中心にした家族がいた。

どうやら、女の子が風船に付いていたヒモを放してしまったみたい。

風船はゆっくりと宙を上っていき、街路樹の葉に引っかかった。


「……よっ!」


お父さんが、ベンチに上ってヒモをつかもうとするけど……


「ダメだ、届かないなぁ~」


もう少しのところで手は届かない。


「棒か何か持ってきましょうか?」


あたしは、小声で猫さんに言った。


「ううん、そんな暇はないかも……」


猫さんは、風船から目をそらさずに言う。

あたしも、風船に視線を戻した。


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