コイスルハナビラ SAKURA
その瞬間、あたしの視界に飛び込んできたもの、それは……


「猫さん!?」


風船に向かって走る猫さん。

それはまるで、つむじ風みたい。

あっという間に、ベンチにたどり着く。

そして、そのままの勢いでベンチを駆け上がると、


「にゃあっ!!」


という声と共に、背もたれを蹴って空へと飛び上がった。


宙を駆ける猫さん。


その姿は……

まるで、背中に翼が生えたみたいだった。


あたしは、思わず息を吸うことすら忘れて、その光景を見入っていた。

ううん、それはきっとあたしだけじゃない。

この瞬間、この場に居合わせた人たちはみんな、あたしと同じように猫さんに目を奪われたと思う。


停止した、あたしたちの時の中を……

猫さんだけが、優雅に空を駆ける……


少なくともあたしには、そう感じられたんだ。


あたしたちの視線を浴びて……

懸命に伸ばしたその手は……

青空に吸い込まれていく風船のヒモを、見事に捕まえたのだった。


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