コイスルハナビラ SAKURA
驚きと、戸惑いと、深い悲しみの感情が、あたしの中で激しく渦巻いている。


涼ちゃんに何かを伝えたいけれど━━━


あたしの口は、金魚みたいにパクパクと動くだけで言葉は出てこなかった。

もう、頭の中は真っ白だった……


そんなあたしに、涼ちゃんは言葉を続ける。



「俺は……お前を彼女にした覚えはないよ……」



確かに『好き』『付き合おう』という言葉はなかった。

でも、それはあえて口にしなくても、お互いに心で通じあえているものだと思っていた。



でも……



現実は違っていた。


涼ちゃんの言葉は、あたしの心をいとも簡単に切り刻む。

足が震えてくる。


「なにそれ……」


あたしはつぶやいた。

今のあたしには、この言葉が精一杯だった。



もう、何も考えられない……

考えたくない……

何もかもが、わからない……



でも、ただ一つ気付いたことがある。



それは━━━



涼ちゃんは、この話の最中、一度も頭をかかなかったんだ……



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