甘い心はあなた一色
「なんで俺が、紗英子送らなきゃなんねぇんだよ」
唇を尖らせながらあたしの隣を歩く、彼方。
「なんか、ごめんね……」
自転車を押しながら、なんだか申し訳ない気持ちになる。
「あの野郎、先輩の俺に命令しやがって」
機嫌の悪い彼方。
そう、さっき教室まで送ってもらったら、そこには彼方がいて。
『多部先輩、すみませんが紗英子さんを家まで送り届けてくれませんか』
初対面の彼方に対して、織くんは真顔でそんなことを言い出した。