君が降ってきた日
失ったこころ
あの日は、雪が降っていた。
私を可愛がってくれた、大好きなおばあちゃんが死んだ日。
「元気だったのに何で…?」
この温かい地域で雪が降ることはめったになく、この雪とおばあちゃんの死は私の記憶にこびりついた。
そして、
またしても雪の日だった。
「お母さん、お父さん、お姉ちゃんっ…!!」
雪の日、お父さんの運転する車に他の車が衝突し、私は一気にお父さん、お母さん、お姉ちゃんを失った。
雪なんかだいきらい…。
私の大切なものを全部奪っていく。
私の心はあの日から凍ったままだ。
時は経ち、私は高校2年生になった。
「…行ってきます。」
返事は返ってこない。
いつものことだ。
あの家族を失った日、私は親戚のおばさんに引き取られた。
「私だって家族がいるのに、何の利益があってこんな無口な子引き取らなきゃいけないのよ?」
これはおばさんの口癖だ。
特に、機嫌の悪い日はやたら言う。
私を引き取るのを、おばさん家族はよく思ってなかった。そして、それは今も変わらない。
だけど、私に悲しいなんて思う権利はない。
養ってもらってる、それだけでも有難いこと。
愛されたいなんて思わない。
私の心はとっくに凍ってるから。
いつもと同じ通学路を通って学校に行って、いつもと同じ退屈な授業を受けて、帰宅する。
この日だっていつもと同じような日を過ごす予定だった。
それなのに…。
「雪降ってるし…最悪」
また雪の日に運命が変わるなんて、思ってなかったよ…。
「おーい、お前ら席につけー。今日は転入生が来てるぞ!」
新米の担任教師が興奮ぎみに言った。
「転入生だって!男の子かな〜?」
「可愛い女の子だったらいーなー。」
クラスメイトが口々にこう言った。
みんな興味津々のようだ。
転入生、か。
私はいつも通り興味を示せないでいた。
「七瀬、入ってこい」
担任のその声で転入生が入ってくる。
「わぁ、かっこいい…」
女子がそう言った転入生。
転入生は男の子だった。
背は180くらいの長身。
無造作にセットされた黒髪。
そして、肌が雪のように白かった…。
だけど、どうでもいい。
他人になんか興味がない。
私は窓の方に顔を背けた。
「七瀬ユキです。よろしくお願いします!」
思わず、窓に背けていた顔から七瀬ユキと名乗る男の子の方に目を向けた。
ユキ…?
凝視してると、ユキと目が合った。
何故か、目が離せない。
ユキは屈託無く笑いかけた。
「せんせー、俺あの子の横でもいい?」
ユキがあの子と指差した先は、私。
わ、私?
「えー、何で桜樹さんの隣?」
「話しかけても笑いもしないのにね…」
女子がこそこそと私の悪口を言う。
女子の嫉妬ほど面倒なものはない。
勘弁してよ…。
あーもう、めんどくさい。
ユキが近づいてくる。
「よろしくね、ハル。」
また、ユキが笑いかける。
「何で私の名前…」
知ってるの?そう言い終わる前にハルは続けた。
「何でって。持ち物に書いてあるじゃん、桜樹ハルって」
ユキがそう言って指差したのは私の持っていたシャープペン。
あ…
これは、小学生の頃から使ってるものだった。
お母さんが私の持ち物に全部名前を書くものだから、色褪せはしてるものの
そのままだ。
少し、お母さんのことを思い出し悲しくなる。
「ユキって呼んでね。ハル」
そんな私に気づくことなくユキは続けた。
「はぁ…」
この頃まではまだ、知らなかった。
この日から私の運命が変わっていくことなんて。