尾行
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尾行
不倫・浮気調査専門の探偵業を始めて3年、近頃やっと尾行している相手を見失うことがほぼ0になってきた。
慣れない頃は、どうしても相手に気づかれてはいけないという想いが強く働いてしまう。しかし、尾行される側は、ほとんどの場合、自分を誰かが尾行しているなどとは1%も疑っていないのだから、気づかれるはずもないのだ。
それを理解してからは、たった3メートル程度の距離しか保たずに1時間以上の尾行続けることも容易い。まぁ、これもわたしがごく標準的な体型の女性だからということも大いに影響しているのかもしれない。裏を返せば、取り立てて個性のないありふれた女性といえるわけだが・・・
事実、今もこうして、ある男性の尾行を30分近く続けている。
依頼主は、その男性の奥様でよくある浮気調査。
そして、驚いたことに、その男性は実は、わたしの知り合いで何を隠そう現在の不倫相手の三浦裕太なのである!
最初、この依頼を受けた時には、とっくに二人の関係、そうわたしと裕太の関係をすでに調べあげてた上で、それを認めさせるための罠じゃないのか?とまで一瞬のうちに考えがめぐった。
しかし、まるで知らぬ存ぜぬふりを決めこみ、話を聞いてみたが、そんな様子は微塵も感じられなかった。
そればかりか、彼の奥様に妙に信頼され、気に入られてしまった程だ。
同じ男性に興味を持ち、関係まで持った女同士というのは、似たもの同士というか、どこかで何かが繋がっているのだろう・・・
というわけで、わたしはこの依頼を受けた。そして、報告書にはもちろん、浮気の事実なしと記すつもりでいる。
実際、こうして、不倫相手の男を尾行してみるのも面白いものだ。彼の行動範囲や、日頃の素行を知るというのは案外楽しくもある。
そんなことを考えながら、尾行を続けてかれこれ1時間になろうかというころ。
彼は、わたしとの密会の時に、よく待ち合わせるカフェへ入った。
わたしは、出入口を伺える場所で待った。
10分もしないうちに彼は出てきた。しかも、寄り添うように女性と一緒に!
ここからは、ふたりの後ろ姿しか見えないが、相手の女性はあきらかに奥さんではない。まさか、彼にわたし以外の相手が?
信じきっていた場合。それが揺らいだ時のショックは計り知れないものがある。一瞬我を失うという感覚をしっかりとわたしもこの時味わっていた。
半信半疑のまま、尾行を続けるしかなかった。
このままふたりが、ホテルにでも入ったら・・・
「許せない!」
思わず、勝手に想像を膨らませて、心を乱したわたしはつぶやいていた。
尾行した。
二人は、繁華街を外れ、人混みが減ったあたりからどちらからともなく手を絡ませた。
このまま歩き続ければ、間違いなくこの先のホテル街へとたどり着く。
「どうして?わたしだけじゃ不満?」
今すぐにでも駆け寄って、問いただしたい気分でいっぱいだった。
あの二人は、もしかしたら、別人?
尾行をミスったのかもしれない・・・いや、そんなことはない、彼のあの焦げ茶のコートは最近のお気に入りのあのコートだわ。
でも、似たようなコートを着ている同年代で同じような体格の男性なんて、星の数ほどこの街にはいるはず。
ふたりが目指しているのは、どうやらわたしと彼がよく使うホテルのようだった。
ここに至っては、疑う余地がほとんどない。
ふたりがホテルに入るその瞬間、相手の女がこっちを振り向いてわたしを見た。
その女は!わたしだった・・・