籠の中のプリンセス ~呪われた指輪と麗しの薬師~
黙り込んでいると、急にアベルが動き出し、彼の肩に乗っていたティアナは危ういところで襟に掴まり落ちずにすんだ。
「アベル? どうしたの」
アベルはそのまま小屋を飛び出し、森の木の前へたどり着くと幹に右手をつけた。
「マルセルのこと……?」
うつむいて黙っているアベルに、ティアナは心が痛んだ。
アベルはティアナよりもマルセルと付き合いが長く仲もよかったから、今回のことはティアナ以上に傷ついているのかもしれない。
「俺が気づけばよかった」
「あなたが気づかなくて無理はないわ。魔法の国で暮らしてきたわたしだってわからなかったんだから」
元気づけようとしてアベルの呟きにそう返すと、アベルは首を横に振った。
「いいや。気づいてやるべきだったんだよ」
彼は木に強く両手を打ち付け、悔しそうに顔を歪めた。
「今回のことはあいつの本心じゃないと俺は思う。最後のあいつの顔……忘れられない」
「アベル……」
アベルの様子にかける言葉が見つからず、ティアナが彼の頬へと手を伸ばしかけたとき、小屋の扉が開いてカイルが中から出てきた。
険しい顔で歩いてくるカイルにティアナは何事かと顔を向ける。
「ティアナ姫。伝えておくことがある」