籠の中のプリンセス ~呪われた指輪と麗しの薬師~
「ど、どうしよう。面倒なことになりそうよ」
「じゃあ、僕はもうここを去るよ」
そう言いながらマルセルがティアナから離れ、ティアナは彼を見上げた。
「……これから、あなたはどうするの?」
「とりあえずリオランドに戻る。アベルや……パフィも残してきたままだし」
「また会える?」
「さあね……?」
マルセルは微笑んだ。
薔薇のアーチの向こうから人の走ってくる音が聞こえ、ティアナははっとしてそちらに目をやる。
すると後ろから頭に優しく手を乗せられた。
「元気で」
慌てて振り返ると、言葉だけを残して、マルセルの姿はもうそこにはなかった。
「マルセル……!」
名前を呼んでも、姿を現すことはない。
ティアナはきゅっと唇を噛みしめてその場に立ち尽くした。
すぐに背後からラナとジルが息を切らして近づいてくる。
「姉上! 不審者が入り込んでいると聞きましたが?」
「ジル様、確かこのあたりにいました! あちらに隠れられそうな茂みがあります!」
ジルが魔法剣に手をかけながらあたりを確認しようとしたところを、ティアナは彼の肩を掴んで勢いよく引き寄せた。
ジルは驚いて目を丸くする。
「ジル。お父様に会わせて」
「な、なぜですか?」
目を見開くジルに、ティアナはにこっと笑顔を浮かべて、目を輝かせる。
「わたし、庭園を出るわ」