籠の中のプリンセス ~呪われた指輪と麗しの薬師~
麗しき薬師
リオランドの国中に、正午の鐘が鳴り響く。
その街はずれにひっそりと佇む、二階建ての小さな家。
くすんだ赤の屋根に陽射しが反射してきらめき、壁には蔦が飾りのように這う。
一階部分は薬屋として開かれていて、木製の棚に古びた鍋や、怪しげな薬草が並んでいる。
その薬草独特の香りが漂う室内で、二人の男女が見つめ合っていた。
女は誘うように男の頬に手を伸ばし、桃色の唇を開いた。
「マルセル、わたしのこと好き?」
マルセルはエメラルド色の瞳を細め、返事のかわりに彼女の唇に口づけた。
そこをちょうど見計らったようにドアに取りつけたベルが鳴り、来客を知らせる。
目だけを動かして見ると、ココア色の髪をふたつに結んだ小さな女の子がドアの隙間から覗き込んでいた。
マルセルは女性から体を離し、女の子に笑顔を向けた。
「いらっしゃいませ、メアリー」
「……こんにちは」
メアリーと呼ばれた女の子は、マルセルに挨拶をしながら女性をちらりと見た。
その視線を受け、女性は笑ってマルセルから離れた。
「今日は帰るわ。またね、マルセル」
去り際、メアリーに「内緒よ」と人差し指を口に当てて見せ、女性は薬屋を出て行った。
ベルの余韻が残るドアを見ていたメアリーが、マルセルに向き直る。
「見ちゃった、キスしてたとこ。いつも違う人だね」
メアリーはにっと笑って、手を差し出した。
「いくら見た目がいいからって、あんまり遊んでると刺されちゃうよ」
彼女の小さな手にいつもの水薬が入った小瓶を乗せてやりながら、マルセルは金色のまつげにふちどられた優しげな目を細めて笑顔を浮かべる。