籠の中のプリンセス ~呪われた指輪と麗しの薬師~
「君にもしてあげるよ。もう少し大きくなったら」
「あたし好きな人がいるからだめ」
即答されてマルセルが肩を竦めると、ひとつに纏めた金色の髪が揺れた。
髪留めも彼の髪と同じ色をした金細工で、渦を巻いた不思議な模様が彫られている。
彼の腰まである長い髪は窓から差し込む陽射しを受けて、金糸のように煌めく。
メアリーはマルセルの髪にうらやましげな視線を送ってから、小瓶を手に室内を見て回り始めた。
メアリーは、薬屋の横を流れる川を渡ってすぐの家に住む女の子だ。
病に伏せる母親のために定期的に薬を買いにくるので、マルセルとはすっかり打ち解けていた。
「いつ見ても変なところ。まるで魔女のお家みたい」
「あんまり触らないでね。危ないものも置いてあるから」
聞いているのかいないのか、メアリーは青い粉が入った瓶を取って覗き込んだり、放ったらかしにしておいた鍋の中身をかき回したりしてあちこち触りまわった。
いい加減放り出すべきかとマルセルがため息をついたとき、メアリーがくるっと振り返った。
「アリアさんって、知ってるよね?」
聞き覚えのある名前に、マルセルはメアリーへと伸ばしかけた手を引っ込めた。
「知ってるよ。絵描きさんだよね」
薬屋を一歩出れば見える川の側で、よく絵を描いているショートヘアの女性だ。
たまにメアリーとその女性が二人で川縁に座り、絵を描きながら笑い合っているのを見たこともある。
メアリーは頷き、表情を曇らせた。
「そのアリアさんね、お城へ連れて行かれたんだって……」