籠の中のプリンセス ~呪われた指輪と麗しの薬師~
「素敵な花の香りがしたものだから、つい入りたくなってしまったの。それにわたくし、抜け道を探すのは得意なのよ」
そう言いながら、彼女はドレスのあちこちについた葉を払う。
全部払い終わったところで、彼女は改めてティアナに向き直った。
「はじめまして。わたくしはリオランド王妃、エリアルですわ」
リオランドはコレンタ王国の隣にある国である。
そういえば今日は、隣の国から客人が来ると乳母が言っていた。
「あなたはどなた?」
「……ティアナ」
ティアナが小さく答えると、エリアルは目を見開き、ティアナをまじまじと見つめた。
見つめ返すと、彼女は優しく微笑んだ。
「あなたは……籠の中の鳥ですのね。昔のわたくしと一緒だわ」
「かごのなかの、とり?」
エリアルの細い指が、そっと少女の肩に触れる。
噴水の水の中に、二人の姿が映る。
「今は辛いでしょうが、いつかきっと救われる日がくるわ。あなたの王子様にね」
ティアナは理解できずに、口を薄く開いたままエリアルを見上げた。
エリアルはティアナの視線にあわせるように腰を屈め、少女の小さな手をとった。
「わたくしも夫に救われたの。あのときから、わたくしの世界は動き始めたの」
そう言って幸せそうに目を細めたエリアルの髪を、風がふわりと靡かせる。
髪にまだ残っていた葉が、風に運ばれて空へ舞いあがった。
ティアナは息を飲んでエリアルを見つめた。
微笑み続ける彼女が、まるで太陽のように輝いて見えた。