籠の中のプリンセス ~呪われた指輪と麗しの薬師~


瓶の中には、黄みを帯びた粉薬がわずかに底に残っている。


マルセルは一瞬迷ったような表情を浮かべたが、ひとつ息をつくとメアリーのところへ戻った。


机の上に薬包紙を広げ、瓶を逆さにして中身を全部出すと、手際よく包んでメアリーに差し出した。


「店にあるのはこれだけだから、もうあげられないんだけどね。病気を完全に治してあげることはできないけど、数日間、普通に暮らせるようになる」


「いいの?」


メアリーは戸惑いながら紙で包まれた薬を受け取り、マルセルを見上げた。


「可愛いメアリーが泣くのは辛いからね」


「ありがとう、薬屋さん!」


メアリーはぱっと顔を綻ばせて、緑のワンピースの裾を翻すと転がるように店を出て行った。


メアリーを見送ると、マルセルは黄緑色の瓶を流しに持っていき、勢いよく水を注いでわずかに残った薬を全て洗い流した。

そしてそのまま瓶に水を溜めると、瓶を手に庭に出た。


店の裏にある庭には大小様々な植物が溢れかえっていて、まるで別世界のようだ。


薔薇やジャスミンといった誰でも知っているものから、この国ではめったにお目にかかれない貴重な植物まで、庭のいたるところで花を綻ばせている。


植物を育てるのは彼の趣味で、薬屋をやっているのはその延長だった。


この庭で採れる薬草で、大抵の薬はつくることができる。

そのお陰で、マルセルは日々の生活をしていく収入を得ることができているのだ。

< 20 / 161 >

この作品をシェア

pagetop