籠の中のプリンセス ~呪われた指輪と麗しの薬師~
マルセルは瓶の中の水を、庭の片隅で俯いているアマリリスに少しずつ垂らしていった。
水は花弁を伝い、地面に染み落ちていく。
葉の上に残った水の玉が、陽の光に煌めいた。
続いてペチュニアにも水をやろうとして、ふとウツボカズラという食虫植物に目がいった。
そのラッパのような捕食袋に何か詰まっているのが見え、マルセルは眉を顰める。
ネズミでも間違って入り込んだのだろうか。
それならば早く出してあげないと可哀相だと、近づいて覗き込んでみて、マルセルは呼吸を忘れた。
そしてすぐさま瓶を放り出し、慌てて引っ張り出す。
放り出された瓶は音をたてて粉々になり、残っていた水はあっというまに土の中に消えていった。
マルセルはウツボカズラの中から救出した小さな生き物を穴が開くほど見つめた。
「これは一体……」
手のひらの上でぐったりとしている消化液まみれのそれは―――どうみても少女だった。