籠の中のプリンセス ~呪われた指輪と麗しの薬師~


「誰か来た。ちょっと見てくるから、君はここにいて」


マルセルは青ざめたままのティアナを心配そうに見てから、彼女を部屋に残して階下へ降りた。


一体今度は誰がやってきたのかと思いながらドアを開けると、見慣れた黒髪の男が中に転がり込んできた。


「アベルじゃないか。どうかした?」


彼はマルセルの数少ない友人の一人だ。

たまに具合の悪いときにこうやって訪れては、医者代わりに使っていく。


アベルは椅子に腰かけ、額に右手を乗せた。

よく見ると黒いシャツに濃い緑のエプロンといった仕事着のままだ。


「なんだか調子が悪い。今朝からずっと頭痛がして、体がだるいんだよ。だんだんひどくなってきた……」


「ふうん。風邪でもひいたかな」


とりあえず頭痛に効く薬を出してやると、アベルはその場で飲み干した。


相当辛そうだ。

短髪をがしがしと掻いて、辛いのを紛らわそうとしている。


「あとで病院へ行きなよ」


「あー、うん」


返事をするのも億劫そうだ。

もう少しここで休ませてやろうと、蜂蜜を湯に解きながらアベルを振り返る。


「そういえばアベルの家は……、どうした?」


振り返った先で、アベルがぐったりと机に伏せていた。

苦しいと小さく言ったきり、荒い息を繰り返している。


こんな短時間の間に急変するなんて、ただごとではない。

急いでアベルの肩を担ぎ、二階へと運んだ。



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