籠の中のプリンセス ~呪われた指輪と麗しの薬師~
初めての街
ティアナ姫とその一行は夜のうちに丘を下り、しばらくの間隣の街に身を潜めることにした。
通りの一角にある宿屋で朝を迎え、今は三人でテーブルを囲んでいる。
アベルは夜明け近くに目覚め、小さなティアナと対面した。
初めこそ驚いてはいたものの、彼はすぐに受け入れてくれた。
というのも彼の家は人形屋で、アベルは小物や服の製作を担当していた。
生きて動いている、人形のように小さな人間を見て感動した彼は、今はティアナのためにマルセルのハンカチを奪ってせっせと服を縫ってくれている。
「アベルは人形が恋人なんだよ」
アベルが作業しているのを珍しそうに眺めていたティアナに、マルセルが言う。
彼はただ一人兵士達に顔を知られているため、髪を茶色に染め、眼鏡をかけて変装している。
ティアナは目をぱちくりとさせて、アベルを見た。
「そうなのね」
「信じるなよ!」
いい加減なことを言ったマルセルを睨みながら、アベルは少し咳き込んだ。
アベルは動けるようにはなったものの、定期的に薬を飲まなければ具合が悪くなるらしい。
すかさずマルセルにつきつけられた薬を嫌そうに飲み干すと、渋い顔をして首を横に振った。
「まずっ! おい、これは一体何でできてるんだよ?」
「秘密。言ってもいいけど、気味悪がって飲まなくなるのも困るし」
「……余計気になる」