籠の中のプリンセス ~呪われた指輪と麗しの薬師~
「姉が病気になってから一度だけ、会わせてもらえたことがあるんです。そのとき、姉のそばに男の子がいましたわ。フードを深く被っていたから顔はよくわかりませんでしたけど、あれは魔導師ね」
「フードの男の子……」
そのときティアナの頭の中には、庭園に現れた蝶の刺青を持つ男が浮かんだ。
フードをかぶっているからって、あの人と関係があると限らないが。
「この国がおかしくなったのも、姉が病気になってからだわ。何か関係があるのかしら。エリアルは無事かしら……」
再び表情に影を落とすリゼットの手を、マルセルはすかさず握る。
今度は両手で、しかも膝までついて、彼女の目を見つめる。
「大丈夫ですよ。僕たちがつきとめます。ご両親も無事に助け出しますし、王妃様の様子も探ります」
「まあ……」
「ちょっと。変な空気をつくらないで」
マルセルが侮れないのが、そういうことをとても自然にできることだ。
まるで息でもするかのように心の中に入りこもうとする。
現にリゼットはうっとりとマルセルを見つめて、頬を染めている。
ティアナはこれ以上リゼットが犠牲にならないように、マルセルに噛みつきながら屋敷をあとにした。