籠の中のプリンセス ~呪われた指輪と麗しの薬師~


ふいに、幼いころの記憶がよみがえる。

噴水の前で会ったエリアルという美しい女性。

彼女とはあれきり、顔を合わせることはなかった。


『あなたを救ってくれる人が現れるのよ』


突然脳内に浮かんだエリアルの幸せそうな表情に、ティアナははっと目を見開いた。

それに気づいたジルが、剣を下ろして訝しげに眉を顰める。


「姉上? どうかしましたか?」


「な、なんでもないの」


ティアナはあわてて首を横に振り、平常心を装った。


あれから10年以上経つというのに、エリアルの言葉をときおり思い出す。


エリアルに出会ったあの日から、ティアナの日常が変わった。

それまでは、花に囲まれ隔離されているだけの自分に、一体何の意味があるのだろうと幼心に疑問に思いながら毎日を過ごしていた。

生きていても、楽しいことなんか訪れないのではないかと。


けれどエリアルのあの笑顔を見てから、ティアナはそうやって生きるのをやめた。

いつか、いつの日か。
この楽園から出られる日が来ると、希望を持てるようになったのだ。


「わたしを救ってくれる人、か……」


ぽつりと言葉を風に乗せると、不思議な感じがした。


(本で読んだおとぎ話のお姫様でもあるまいし。わたしは確かに王女だけど……)


本気で王子様が現れてくれるなんて思ってない。

王子様が助けてくれることがあるなら、それはただの政略結婚のときだけだ。


それなのに、肝心の縁談はひとつもティアナのところに届いていない。

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