籠の中のプリンセス ~呪われた指輪と麗しの薬師~
サファイアとお嬢様
「う……ん……」
目を覚まし、ゆっくりと体を起こすと見慣れない風景が目に飛び込んできた。
どこか建物の中のようで、小さな窓からは三日月がのぞいている。
窓の下には使い古された袋がいくつも下げられており、壁には鋤や鍬が立てかけられている。
「ここは……」
「あ、気が付いた」
マルセルの声に振り返ると、マルセルが桶を手に立っており、アベルがその奥で俺もいるよとでも言うように手を軽く挙げた。
「どうやら麦畑の中に飛ばされたみたいで、近くにあった納屋にお邪魔させてもらってる」
マルセルが桶の中に何やら布を突っ込み、腕まくりして洗いながらそう説明してくれた。
「俺たち、丸一日気を失ってたみたいだぜ。あのばあさん、手荒だよなあ」
「仕方ないわ。事態は急を要してたんだから」
リュイのことを思い出し、ティアナは表情を暗くする。
リュイがあの場から逃がしてくれなければ今頃どうなっていたかわからない。
あの後、リュイや子どもたちは一体どうなっただろうか。
あの男が手荒なまねをしなければいいのだが。