籠の中のプリンセス ~呪われた指輪と麗しの薬師~


しばらくお互いに黙っていた。


アベルの寝息と、窓の隙間から入り込む風の音がいやに大きく聞こえる。



やがて、マルセルが先に声を発した。



「ティアナ……今聞くようなことじゃないかもしれないけど、聞きたいことがあるんだ」


マルセルの言葉にぴくりと指先を動かし、顔をわずかにマルセルのほうへ向けると、マルセルが口を開く。



「君があの夜泣いていたのは」



ティアナははっと瞳を揺らした。マルセルはゆっくり言葉を紡ぐ。



「あの男に何か言われたからなんだね?」



「……」



しばらく黙り込んだあと、唇をぎゅっと噛んでマルセルを振り返る。


「……そうよ。あの人がわたしに指輪を渡した人なの。あの夜、マルセルが部屋を出て行ったあとにわたしの前に現れたわ」


マルセルがティアナのそばに、そっとハンカチを置く。


「国があんな風になってしまったのは、わたしのせいだって。わたしが指輪を使いたいって思ったからだって」


ティアナはうつむいて、握りしめた自分の手を見た。その手の上に、静かに涙が落ちる。



自分がそんな愚かなことを思わなければ、あんなことにはならなかった。



あとからあとからこぼれ落ちてくる涙に、ティアナはマルセルが置いてくれたハンカチの端を目にあてた。


涙をぬぐいながら、ひたすら胸の奥が苦しくて仕方なかった。


あの日のショックが、今になって襲ってきたような感じだ。


< 87 / 161 >

この作品をシェア

pagetop