籠の中のプリンセス ~呪われた指輪と麗しの薬師~
しばらくお互いに黙っていた。
アベルの寝息と、窓の隙間から入り込む風の音がいやに大きく聞こえる。
やがて、マルセルが先に声を発した。
「ティアナ……今聞くようなことじゃないかもしれないけど、聞きたいことがあるんだ」
マルセルの言葉にぴくりと指先を動かし、顔をわずかにマルセルのほうへ向けると、マルセルが口を開く。
「君があの夜泣いていたのは」
ティアナははっと瞳を揺らした。マルセルはゆっくり言葉を紡ぐ。
「あの男に何か言われたからなんだね?」
「……」
しばらく黙り込んだあと、唇をぎゅっと噛んでマルセルを振り返る。
「……そうよ。あの人がわたしに指輪を渡した人なの。あの夜、マルセルが部屋を出て行ったあとにわたしの前に現れたわ」
マルセルがティアナのそばに、そっとハンカチを置く。
「国があんな風になってしまったのは、わたしのせいだって。わたしが指輪を使いたいって思ったからだって」
ティアナはうつむいて、握りしめた自分の手を見た。その手の上に、静かに涙が落ちる。
自分がそんな愚かなことを思わなければ、あんなことにはならなかった。
あとからあとからこぼれ落ちてくる涙に、ティアナはマルセルが置いてくれたハンカチの端を目にあてた。
涙をぬぐいながら、ひたすら胸の奥が苦しくて仕方なかった。
あの日のショックが、今になって襲ってきたような感じだ。