籠の中のプリンセス ~呪われた指輪と麗しの薬師~
マルセルは涙を拭くティアナを苦し気な表情で見ていたが、やがてふっと口を開いた。
「確かに指輪を使いたいと望んだかもしれない。でも、悪いのはあいつだ。あいつがその指輪を君に渡さなければこんなことにはならなかった」
黙り込むティアナに、マルセルは声を柔らかくして告げる。
「ティアナ。君のその気持ちは、またあいつに利用されるかもしれない。ゆっくりでいい、向き合ってほしい」
そう言うと、マルセルはティアナを手の上へ誘った。
ハンカチに顔を半分うずめながらその手の上に乗ると、彼の胸ポケットの中へと入れられた。
顔をあげるとマルセルのエメラルドの瞳が優しく細められる。
「君は遅くまで気を失っていたから眠れないかもしれないけど、なるべく眠ったほうがいい」
ポケットの上から手で包まれ、じんわり体が暖かくなった。
体のぬくもりと一緒に、いろんな気持ちがほどけていくように感じた。
わめき疲れたのと泣き疲れたせいなのか、少しだけ眠気も襲ってくる。
「マルセル……今夜はずっと、ここにいるの?」
「ティアナを守らないといけないからね」
そう言ってみせるマルセルに、ティアナは微笑む。
なんだか変な気分だ。
さっきまで怒りをぶつけていた相手に、なぐさめられているだなんて。
マルセルには感情を揺さぶられてばかりいる気がする。
「おやすみ、ティアナ」
ふわりと穏やかな波のような眠気に包まれ、ティアナはそっと目を閉じ、その波の中に身を沈めた。