籠の中のプリンセス ~呪われた指輪と麗しの薬師~
憤慨したティアナがジルにつかみかかった手を、ジルはひらりと躱してにっと笑った。
その顔がまた憎らしい。
「僕はそろそろ戻ります。暇なら花嫁修業にでも精をだしてくださいね」
「何よ、今のわたしじゃ不足だっていうの?」
ジルは笑って、背を向けた。
その後ろを、お送りしますと言ってラナがいそいそとついていく。
二人がアーチの奥に消えていくのを眺めながら、噴水の端に腰を下ろした。
慣れているとはいえ、やはり一人になるのは少し寂しい。
自分はここに閉じ込められている身なのだと、つくづく実感させられるのだ。
しかし、ジルの話によればティアナに縁談がきているという。
もしかすると、この庭から出られる日は、そう遠くはないのかもしれない。
(もうすぐ……出られる? ここから……?)
胸に芽生えた淡い期待に、ティアナはそっと目を閉じた。
小鳥の囀り、花の香り、涼やかな噴水の音。
いつもと同じはずなのに、それら全てがまるで彼女を祝福しているかのように思えた。
そよ風がティアナの赤い髪を躍らせたとき、ふいに、背後に人の気配を感じて目を開けた。
(ラナ、もう戻ってきたのかしら)
そう思いながら振り返り、はっと息を呑む。
水がざわめく噴水の向こう側に、見知らぬ人が立っていたのだ。
庭師とも様子が違うその人物は、フードを深く被っていて顔が半分しか見えないが、体格からして男性のようだ。
「初めまして……あなたはティアナ様ですね」