kuro
私はじっとその子をみた。
白い肌に黒い髪、瞳。
その子の放つ「黒」から目が離せない。
近づくにつれはっきりする輪郭に、存在に、私はますます身動き出来なくなり、ついにそっと頬に触れられるまで、動くことをしなかった。
今日は手袋をしていないんだ。
そう脳裏に過ると同時に澄んだテノールが耳に響いた。
「泣いてる。」
触れたままの手を
スッと拭うように動かす、綺麗な
「黒.....」
「黒?」
そう、君は黒。
綺麗な綺麗な、黒。
私に色をくれた、不思議な人。
こくりと頷くと
しばらく悩むそぶりをしてまた黒の君が尋ねた。
「.......僕?」
「そう。」
「そう?」
「そう。"黒"」
「何?」
「...........くろ。」
「何?」
黒は、首をかしげて私の止まらない涙を拭きながら返事をする。
私だって何故こんな奇妙なことになってしまったか、わからなくて。
でも、心にあるのは。
一番に感じてるのは。
歓喜。
次第に拭えなくなる涙に
黒いハンカチを出してきたくろに、
やっぱり心を奪われて、また泣いて。
くろの中に、私は存在したかったのだと自覚したのはこの日からずっとあとのことだった。