kuro
それからしばらくして、
また私はくろに遭遇した。
今度もくろは黒い服で空を見つめていたけど、私の存在を目にとらえると、
手をちょいちょいと曲げて手招きしてきた。
その仕草に心が跳ねるのは無視して、
あくまで平静を装い、手招きに従ってくろに近づく。
するとくろは自分の座っているガードレールの横をぽんぽん叩いた。
私はいそいそとくろの隣に座り、
くろを見上げると、
くろは満足そうに頷いて、
また空を見つめはじめた。
だから私も見つめてみることにした。
なにが見えているのか、少しでも分かったら良いのにと、思ったから。
けれど私にはただの曇り空にしか見えなかった。
それが想像以上に寂しくて、隣で
微動だにしないくろに少しの視線をむけた。
この子は晴れた日にここに来ることは無いのだろうか。
まだ3回目だけど、
1度も晴れの日に遭遇しない。
それも夕ぐれ時にばかりここで空を見つめているのではないか。
何かを思い出しているような、
何かを考えているような、
そんな表情を空に向けて、
何分間もいるくせに
何事もなかったように
その「儀式」は終わる。
空を見つめるくろはやっぱり美しかった。
正直私は空よりくろを見ていたい。
そう思っているうちに
強い風が吹いた。
くろの耳を隠す髪の毛が風によって持ち上がる。
その下の耳には幾つものピアス。
黒、黒、黒、黒、黒。
一際大きなブラックダイアモンドが
きらりと光った。
片側だけが、こんな数な訳がない。
不良には見えないし、
それだけつけいても痛々しく見えたりもしない。
そこにそのピアスがあることが当たり前であるかのように並んでいた。
本当に......不思議な子。
ぱっとみただけで5個はあるピアスに私はひくどころか、寧ろ惹かれていた。
触れてみたい。
素直にそう思った。