kuro
風が止んで
ピアスはすぐに髪の毛の下に
姿を隠した。
もう少し見ていたかった...。
そう思っていたら、
くろの顔がこちらに向いた。
「見すぎ。」
見すぎ....?
「穴、あいちゃうから。
そんな見ないで.....。」
くろの顔が少し赤い......。
そして私も、赤い、はず。
見ていたのを知ってたなんて。
反則だ。
照れた顔が可愛いのも、
物凄く反則だ。
だから、動揺して。
「そ、れは....ごめんなさい。
で、でも、もう穴だったら沢山開いてた。」
やっと出た言葉は意味不明になってしまった。
「開いてる?」
「...耳。」
「あぁ。これか。」
それでもくろには普通の会話として届いたみたいで、そう言ってさらりと髪を耳にかけ、少し頭を私の方へと傾けた。
優しい少しだけ甘い香りがして。
頭一個分はあった身長差が一気に縮まり、思わず息をつめた。
近い.....。
でもやっぱり綺麗。
「綺麗。」
「もう一個あける?」
「何故?」
「見すぎだから。」
......今度こそ私は何も言えなくなった。
私が黙っていると、
くろが静かに笑いだした。
「嘘だよ。穴は開けないよ。
意地悪しすぎた、ごめんね?」
そうして私を覗き込んだ。
私は更に近くなった距離に
驚いて、思いきり立ち上がった。
これでも30歳をすぎた大人なのに、
何故こんなことで一々動揺してしまうのか。
真っ赤な顔をした私を
くすくす笑うくろをみて心底思った。