kuro





小さな機械音と小さくかけられた
BGMが眠りを誘い、私はいつの間にか
寝てしまっていた。


遠くで甘い香りと優しい声がした。


次第にゆさゆさと
揺すぶられる感覚を覚え、
目が覚めた。


「おねーさん?起きた?」

.....やってしまった。

「ごめんなさいっ。」


初めて来た人の家で寝てしまうなんて。
しかも私のために作業してくれていたのに。


落ち込んでいると
くろがいつかしていたように
静かに笑っていた。

「大丈夫、そこのソファー
気持ちいいよね。
僕もお気に入り。
起こしてごめんね?おはよ。」


「おはよ....。」


何故か上機嫌のくろ。

いつの間にかブランケットを
かけてもらっていて、
ココアは新しいものに変わっていた。



くろは意外とマメな男の子らしかった。


「色々ありがとう。
若いのに気が利くんだね。」


若いのには余計だったかもしれない。
自分で言っていて悲しくなってしまう。


「若いからじゃないよ。
僕、気が利くなんて初めて言われた。」



はにかむくろ。
やっぱり若いと思った。
こんなに気が利くのに周りの人間はどこを見ているのだろうか。



「これ、彫れたから。貰って?」


物思いに耽っていると
眼鏡ふきのような布から
出てきた蛇の指輪。

蛇の体の裏側には本当にgenではなくkuro と彫られていた。

「これは、私だけのネーム?」


「もちろん。」

少し高鳴る胸。
でも、同時に気付く。

「そうだよね。くろなんて呼ぶやつ私くらいしかいないもんね。」


なんだか特別の意味が減った気がして勝手に落ち込む私。


「違う。
ぼく、あの、その。」

「?」

くろが少し言うのを躊躇い、
そして決心したように言葉を紡いだ。


「僕の名前、くろと。
玄人に北斗星の斗で、くろと、なんだ。

でも、おねーさん、僕の名前知らなかったでしょう?」



驚きすぎて声も出ない。

頷くことも出来ず、ただくろを見つめた。


「最初、おねーさんが僕を「くろ」って呼んだとき、ストーカーさんか知り合いだと思った。よく小さい頃はそう呼ばれていたから。」


私は何も答えることが出来ず、
ただくろの話に耳を傾ける。

「でも、おねーさん僕の姿を見て
「黒」っていったんだよね?」

「だから、僕のこと知らないって分かった。」





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