kuro
「僕、今はまだましだけど。昔は感情がもっと表に出なくて。親ですら僕とのコミュニケーションに苦労するくらいだった。」
「楽しいとか、痛いとか、苦しいとか、思ってても誰も気づいてなんてくれなかった。自分でもそのうち本当に楽しいのかどうかもわかんなくなっちゃって。友達も、彼女も、「玄斗は何考えてるか分からない」って悲しそうにして僕からさよならしていった。
僕も悲しくてそれを伝えたかったけど、僕には皆みたいに伝え方がわからなくて、たださよならしていくのをそのままにすることしかできなかった。」
昔を見つめるように、思い出すように話すくろはよく見ると少しだけ震えていた。
思わず手を上から包むと、
少しビックリした顔をしたが
払うことはしなかった。
「僕にとって、僕以外のものは皆キラキラして見えた。羨ましかった。
放課後のお喋りや笑い声も、
喧嘩も仲直りも。
全部僕には無縁だった。
上手く話せない。上手く笑えない。
泣きたいときに涙がでない僕は
欠陥人間に思えた。」
「そんな。」
ありがとうと小さくお礼を言えるくろは、どう考えたって欠陥なんかしてない。
「でもね、そんな僕でも大事にしてくれる人がいたんだ。
僕は今でもお日様だと思ってる。ついに
外に出れなくなった僕にこれを渡してきた。」
この子がお日様だと思う存在....。
どれだけ綺麗な心の子なんだろう。
私はいけないと思いつつその子に僅かに嫉妬した。
そんな私に気づかずくろは話を続ける。
「この鷹のネックレスをね、僕に持ってきたんだ。「玄斗はこのままでいい。今のままの玄斗だって大好きだ」そう言ってくれた。それで僕は初めて泣けたんだ。」
嬉しそうに空いてる方の手で鷹を握りしめるくろ。
息が詰まりそうになる。
「くろは、その子が好き?」
「もちろん。変えられない存在。」
苦しい。苦しい。苦しい。
くろに触れていた手を離す。
気づかれてはいけない。
くろはもう震えていなかった。
震えているのは私の手。
「おねーさん?」
話を戻さなくては。
首を傾げるくろに無理矢理笑顔を向ける。
「くろは、いつgenになったの?」
気持ちとは裏腹にするりと出てきた言葉。
くろの感情が出せないときに会っていたら私がくろのなかに存在することができたのだろうか、なんて。
絶対今思うことではないのだ。
話せるようになって良かった。
過去を話してくれるだけで嬉しい。
笑えるようになって本当に良かった。
そう考えなくてはいけないのに。
どうして私はこんなに汚い人間になってしまったのだろうか。
くろの綺麗な瞳に写る自分から思わず目を背けた。