kuro
「ストーカーだと思ってたのに?」
少しからかうようにいうと、
くろはそうだねと笑った。
「でも、今はもう友達で、何度だって会いたい人だよ。」
純粋な気持ちが流れ込んでくる。
「私も、何度だってくろに会いたいよ。」
だから
嘘偽り無い気持ちをぶつけてみる。
温かい空間が生まれて
私はふやかされてく。
そしてふと彼との日を思い返した。
いつしか嫌われないように関係が壊れてしまわないように、当たり障りの無い会話を繰り返すようになっていた。
何かをしてもらえないのは、
「何もしてない」からだと言い聞かせるように、誕生日もクリスマスもバレンタインも記念日も全て他の日となにも変わらぬように過ごした。
夕飯を作るのもやめた。
彼が夕飯を食べる時刻に帰ってこなくなったからだ。
朝ごはんも自分の分だけにした。
彼は昼まで眠っていたからだ。
作っておいたら食べていく日もあったけど、次第にそれも無くなっていた。
二人の共有の財布には
お金が入らなくなった。
でも、私は見て見ぬふりをしていた。
そうすれば彼は居てくれると
疑わなかったのだ。
まさか部屋ががら空きになっているなんて、思うことがなかったのだ。
会話がなくって、彼の部屋に遊びにも行かなくなり、それは当たり前になっていたから。
私は馬鹿みたいに彼が離れていっている事実から目を背けて、嘘の日常を1人で過ごしていたのだ。
彼がもう私のもとには戻ってこないなんて、部屋を見る前に分かってたはずなのに。
ずっと自分に嘘をついて、
彼にも気づいていないと嘘をつき
結局失った。
いつから嘘ばかりの世界にいたのか
思い出せずにいる私に彼は
あっさりと現実をはりつけて去っていった。
そして私も彼からの愛情が
あるなんて嘘は、
もうつけなくなったのだ。
どうしたら傷つかないのかしか考えていなかったようにも思える。
単純に事実と向き合う自信がなかったのだ。
くろのようにまっすぐ不器用でも気持ちをぶつけるなんて、そんな勇気のいることは、今の私には出来っこなかったのだ。
でももう嘘ばかりの世界には居たくないし居られない。
疲れてしまったのだ。
結局「彼」の理想にはなれなかったのだから。だから去っていったのだ。
無理だった。
私にはできなかった。
私をずっと見つめて、
受けとめようとするくろの視線さえ
痛く突き刺さるように思える。
くろはわかっていない。
もう「お友達」ではいられなくなるだろうということを。
くろが、私に会いたいなんて思わなくなるということを。
わかっていない。