kuro
くろの過去を少し知ってから
「次」はすぐにやってきた。
くろがまた「次にアトリエに来る日」を指定してきたからだ。
くろの狡いなと思うところは
日にちを決めてくるくせに
時間を決めないことと、
別れ際に凄く思いを込めて
「待ってるから。またね。」
といって扉をしめることだ。
行かずに済ましてしまおうかと思っても
頭にくろの待ってるからのフレーズがリフレインすると、行くことしか考えられなくなってしまう。
そして、三日後にはアトリエの門を叩いていたのだった。
その時もくろはスェットで出迎えてくれたのだが、どうやら作業中だったらしくココアを出すとアトリエの扉をあけて手招きをした。
中には作り途中の銀板が机にセットされたいた。
くろは私が扉口に立って見ていることを確認するとランプに引っ掻けてあるゴーグルを装着し、バーナーをあてはじめた。
銀板だったものがあっという間にバングルに変化して、くろが微調整していく。
それは本当に魔法のようで、
思わず拍手していたのだった。
くろがゴーグル越しに照れ臭そうに笑ったのも記憶に新しい。
その日から2回、
3回と足繁くアトリエに通う私がいる。
くろは私が来ることに大賛成だと言わんばかりにまたね、と言うのを止めなかったし、私は少しずつだったがくろの作品作りを見るたびにバリアが一枚ずつ剥がれていくのを感じていた。
いつしかアトリエの扉をあけて、
扉口にイスがセットされるようになっていた。
そこに座ってくろの作品作りを見る。
言葉はあまり交わさない。
けれど時々こちらを見るくろの視線が心地よかった。
今日も仕事終わりにくろのアトリエに出向く。
いつもと違うのは
今日は少し時間が遅くなってしまい
スーパーによってから来たということだ。
エコバッグからは葱がちらちらと頭を出している。
大分馴れたインターフォンを押す動作も、今日は荷物の分だけ少ししづらい。
「いらっしゃい......あれ。
ネギ?」
くろが目敏く買い物袋を私から奪い取った。
「そう...今日遅くなっちゃいそうだったから先にスーパーにって...どうしたの?」
説明している私を物凄い良い笑顔で見つめるくろ。
思わずぎょっとしていると、
「これ。ゆーはん?」
にこにこしながら聞かれる。
「はい。」
短く答えると、
ぱぁっと聞こえてきそうなほど
目を輝かせたくろ。
「ここで作って!」
キラキラの黒い瞳に私は
「簡単なものでよければ。」
と口走っていたのだった。